風邪でダウンしていたスタッフ鈴木です。
現代社会ではサルでも風邪をひくのに、ここ何年も風邪などには罹ったことがない――、どこかの会社の部長のセリフです。きっと見えないところで、かなり厳重な健康管理をしているのでしょうね。
こんな上司の下では、うっかり風邪などひいているわけにはいきません。風邪で1週間くらい休んでみたいと思うことなどとんでもない暴挙でしょう。
そんな会社にいる人のために、今号では風邪の予防について考えてみます。
基本は寒冷刺激を避ける
●寒冷刺激を避ける
冬場の葬式や通夜に行って風邪をひく人がいます。これは長時間冷気を吸い込むと鼻や喉の粘膜の血管が収縮して、粘膜面にある線毛の動きを悪くしてウイルスや細菌が住み着きやすくしてしまうからです。線毛は鼻から気管・気管支粘膜に高級絨毯のようにぎっしり生えていて、常に侵入してきた異物を波打つような動きをして外部に排泄するような働きをしています。
●うがいをする
口やのどの粘膜に付着したウイルスや細菌を洗い流す効果があります。ただ、これらの病原体は極めて短時間に細胞内に侵入するので、効果はあまり期待できないとも言われています。
手洗いが最高の予防法
●マスクを使う
ウイルスや細菌はとても小さく、マスクのガーゼなどは簡単に通過できます。ただ痰やつばなどは通れませんので、他人にうつさない効果は多少期待できます。更にマスクは鼻や口の湿度を保つのに有効です。
冬の外気は湿度30%以下も珍しくありませんが、呼吸で吐き出す息は湿度が100%近くあります。呼気の水蒸気はマスクのガーゼに付着し、次の吸気でそれを吸い込むことができますので粘膜の加湿ができるわけです。
●手洗いをする
電車やバスに乗ったら他人の行動をよく観察してみてください。咳をするときはマナーとして殆どの人は口に手を当てているはずです。その手には風邪のウイルスがたっぷり付着しているでしょう。
そして咳が収まるとその手でつり革、手すりにつかまります。風邪患者の身体から離れたウイルスは最低20分は生きているといわれています。条件が良ければ何時間も生存可能です。風邪患者が触ったつり革、手すりに次の乗客が触れるとウイルスはその人の手に乗り移ります。
人は日常無意識に手を鼻や口の周りに持っていく癖がありますので、かなりの確率でウイルスは感染してしまうと思われます。同じ原理でドアノブ、エレベーター行き先ボタン、タッチパネルなども風邪ウイルスの感染仲介役として疑われています。従って、しばしば手を洗って知らない間に手に付いたウイルスを洗い流しておきたいものです。
●栄養と休養
不規則な生活、栄養不足は線毛の働きを鈍くしてしまいます。またウイルスなどの病原体に対する抗体の産生を遅らせます。這ってでも出てこいといわれて無理して仕事をすると結局症状は長引き、仕事の効率は悪くなります。思い切って休むこと、休ませることも、最終的には生産性の向上につながります。
適度な緊張感には効果も
●禁煙
タバコの煙には発癌物質をはじめたくさんの化学物質が含まれています。線毛の働きを低下させる物質も入っていますので、喫煙者は風邪の治りが悪くなります。風邪をひくとタバコがまずくなりますので惰性で吸い続けることはやめ、思い切って禁煙しましょう。最近はどこへ行っても喫煙者はすみっこに追いやられてしまいますので、この際多数派に入ることがおすすめです。
●ワクチン接種
インフルエンザウイルスに対するワクチンは、毎年過去のシーズンや直近に南半球で流行した株を勘案して生産されます。あるシーズンの有効率は30%弱でしたが、その次のシーズンは50%近くにまで回復しました。最も良かった年は70%という好成績でした。
流行期の前に接種を受けましょう。成人は1回接種で十分な効果が得られます。高齢者は自治体の補助があります。また企業では健康保険組合が費用の一部または全部を負担してくれます。インフルエンザ以外のいわゆる風邪の病原体に対するワクチンはありません。風邪をこじらせて細菌感染を併発することは珍しくありませんが、肺炎球菌に対するワクチンは既に実用化されています。
肺にもともと病気があったり、以前かかった肺の病気の後遺症がある高齢者などは5年に1回この肺炎球菌ワクチンをしておくのもいいかもしれません。
●適度な緊張感
よく一つのプロジェクトを完成した後や、入学試験が終わった直後などに大風邪をひく人がいます。適度の緊張感をもって生活している時のほうが風邪をひかないことはよく経験するところです。這ってでも出て来いという上司は、この緊張感を植え付けて風邪をひかない社員を育てようとしてのかもしれません。
実は全身の臓器・組織にあるマクロファージと血液中の白血球は、侵入した細菌やウイルスなどを処分して身体を守っていますが、これらに自律神経が影響・支配していることが分かってきました。
解熱剤の飲用は慎重に
●解熱剤は慎重に
風邪をひくと熱が出ます。そのメカニズムは、風邪のウイルスが身体に侵入すると感染がおきた場所例えばのどの粘膜などに、白血球の仲間のマクロファージという細胞が集合してウイルスを食べます。さらにインターロイキン1という化学物質を産生します。これは脳の発熱中枢に作用して体温を上げます。
体温が上がると白血球や線毛の働きは活発になり、ウイルスを食べたり外部に排出する機能が順調に働きます。一方で、発熱はウイルスの活動を鈍くします。従って、ウイルスなどの感染による炎症を早く鎮静化するにはある程度の発熱は必要なのです。そんなわけで風邪の熱は必要があって出ているのです。
風邪の初期にあわてて解熱剤を服薬することは風邪を長引かせることにつながりかねません。ただ、あまりに炎症反応が強くて、全身が消耗・衰弱するほどの場合は、過剰な炎症反応を抑える目的で適切な解熱剤の使用は問題ありません。市販の感冒薬でも医師が処方する風邪薬でも大体は鎮痛解熱剤が入っていますが、発熱のメカニズムを知った上で適切に使いましょう。